大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京家庭裁判所 昭和41年(家)6670号 審判 1966年12月26日

申立人 佐藤安江(仮名) 昭和三九年六月一九日生

法定代理人親権者 佐藤てるみ(仮名)

相手方 大山勝一(仮名)

主文

相手方は申立人に対し、扶養料として、金一二万七、八〇〇円を本審判確定と同時に、並びに昭和四二年一月以降申立人が成年に達するまで毎月金六、六〇〇円宛を各月二〇日限り、いずれも申立人住所に送金して支払え。

理由

一、本件申立の要旨は、

申立人は、昭和三九年六月一九日相手方と申立人法定代理人親権者佐藤てるみとの間の長女として出生した者であるが、相手方と右佐藤てるみとは、昭和四〇年八月一一日東京家庭裁判所の調停により離婚し、その際申立人の親権者は右佐藤てるみに定められ、以来申立人は同人によつて監護養育されている。右調停において、申立人の養育費の分担についても右佐藤てるみと相手方との間に話合が行なわれたのであるが、相手方は分担の意思がなく、右佐藤てるみもやむなく、後日別途に協議することとして、離婚調停を成立させたのである。しかし、その後においても相手方は申立人の養育費を支払う意思がなく、協議がととのう見込もないので、相手方は申立人に対し昭和四〇年一〇月以降相当の扶養料を支払う旨の調停をされたい。

というにある。

二、本件調停の経過

申立人の調停申立は、昭和四〇年一〇月二一日になされ、同年一一月二九日より昭和四一年六月二五日まで前後八回にわたつて調停期日が開かれたのであるが、相手方は当初養育費を請求するのならば、申立人を自分の方で引き取る、養育費を支払うことはできないとの意向であつたが、調停委員会の説得により、一旦養育費を支払うことを考慮する意向になつたものの、それも毎月一定額を支払うのでなく、一時金一〇万円で打切りにしたいということであつたので、更に調停委員会は毎月一定額を支払うことを考慮するように説得したのであるが、相手方は一時金一〇万円ですますなら母佐藤てるみがこのまま申立人を養育してよいが、毎月養育料を要求するようであれば自分の方で子を引き取ると強く主張し、結局昭和四一年六月二五日に、調停は不成立に帰し、本件調停の申立は、家事審判法第二六条第一項により審判に移行し、右調停申立のときに審判の申立があつたものとみなされたのである。

三、当裁判所の判断

審案するに、昭和四〇年(家イ)第一、五九七号夫婦関係調整事件記録中の調停調書、本件記録添付の各戸籍謄本並びに申立人法定代理人佐藤てるみおよび相手方に対する各審問の結果によれば、申立人の母佐藤てるみは昭和三八年五月一〇日挙式のうえ、相手方と同棲し、同年一一月一一日に正式に相手方との婚姻届出を了し、昭和三九年六月一九日に相手方との間の長女として申立人を儲けたのであるが、母佐藤てるみと相手方の折合が悪くなり、昭和四〇年八月一一日東京家庭裁判所の調停により両者は離婚し、その際申立人の親権者は母である右佐藤てるみと定められ、以来申立人は佐藤てるみによつて監護養育されていること、また右調停成立の際に相手方は慰謝料並びに財産分与として金二〇万円を支払つたのであるが、申立人の養育費についてはこれを分担する意思がなく、右佐藤てるみが申立人の養育費を請求するのなら、自らが親権者となり申立人を引き取つて養育すると主張するので、申立人の養育費の問題については解決を留保し、右佐藤てるみと相手方との間において後日別途協議することとなつたこと、その後も相手方は申立人の養育費を分担する意思がなく、右佐藤てるみと相手方との間に協議も行なわれず、相手方は今日まで申立人の養育費を支払つていないことを認めることができる。したがつて申立人の実父である相手方は、申立人に対し、その請求する昭和四〇年一〇月以降相当の扶養料を支払わなければならないことは明白である。

もつとも相手方は、前記調停成立の際支払つた金二〇万円の中には、養育費の一時金も含まれているとか、また養育費の一時金が右金員の中に含まれていないとしても、右佐藤てるみは申立人の親権者となつて申立人を監護養育できるならば、申立人の養育料を請求しないといつたので、相手方は申立人が親権者となることを承知したのであつて、今になつて養育料を請求するのは調停成立の際の約に反するとか主張するのであるが、前記調停調書によれば、金二〇万円は慰謝料並びに財産分与として支払つたものであることは明白であり、また申立人の養育費についても「子の養育費については後日別途に協議する」旨が明記されており、この趣旨は前記認定のとおりと解されるので、相手方のいずれの主張も認め難い。そこで、相手方が申立人に対する扶養料としてどの程度の額を支払うのが妥当であるかについて、検討する。

申立人は、審理の当初においてその母佐藤てるみが現実に申立人を養育するのに、月額約一万五、〇〇〇円を要しているので、その全額金一万五、〇〇〇円を扶養料として請求し、その後金八、〇〇〇円まで請求額を減縮したのに対し、相手方はその収入からして月額金五、〇〇〇円が精一杯であると主張しているのであるが、当裁判所は本件の如き未成熟子に対する扶養料を算定する場合においては、別表の労働科学研究所編「総合消費単位表」および「基準単位の最低生存費および最低生活費」の如き一般的な統計に準拠して、資産収入、生活に必要な費用のほか、関係人の最低生活費や親と子の生活程度を算出もしくは測定して妥当な額を決定するのが公正かつ合理的であると思料する。佐藤てるみおよび相手方の提出した各疏明書類、家庭裁判所調査官永井輝男の調査報告書並びに当裁判所の佐藤てるみおよび相手方に対する各審問の結果によると、申立人は、母である佐藤てるみと父である相手方とが離婚した後は、肩書住所において右佐藤てるみとともに生活し、個人によつて監護養育されているのであるが、同人の母(申立人にとつては租母)佐藤ハルも同居し、右佐藤てるみが○○デパートに婦人服デザイナーとして勤務しているので、同人が昼間勤務中は右佐藤ハルが申立人の世話をしておること、右佐藤てるみは一箇月平均手取収入が約三万五、〇〇〇円であり、(従前の本俸は三万一、二五〇円、昭和四一年五月から三万五、七五〇円となり、一、五〇〇円増額されているが、従前の時間外手当その他の収入が増俸後は減少しており、税金その他の諸控除金を引き去ると手取収入においてはほとんど従前と変りないものと認められる。)、右佐藤ハルは時々静岡県浜松市の実家に戻り、同人の生活費は同人が自ら負担しているので、右佐藤てるみは前記の収入をもつて、自己および申立人の生活を維持しているのであるが、現住所はアパートの一室で、間代として昭和四〇年中は一箇月金一万五、二五〇円を支払つていたが、その後四一年はじめより一、〇〇〇円増額され一箇月金一万六、二五〇円を支払つていること、相手方は警視庁○○警邏隊に所属する巡査であつて、昭和四〇年一〇月以降一箇月の平均手取収入は約四万五、〇〇〇円であり、昭和四一年一一月までは東京都渋谷区○○町七八番地の父大山浩所有の家屋に、父大山浩、母同クニ子とともに居住していたが、昭和四一年一二月四日本橋則子と結婚式を挙げて以来肩書住所において同女と同棲していること(同女との婚姻届出は同月一六日東京都渋谷区長によつて受理されている。)、父大山浩は長年東京都庁に勤務していたが、昭和四一年四月に退職し、その後は無職であるが、年金を支給されており、父母の生活はそれでまかなわれていること(相手方は、父が退職後は父母と同居中約金一万五、〇〇〇円を父に渡していたというが、これは父母の扶養費として支出したものでなく、父母と同一世帯で生活していたので、多少父母の生計を助ける意味があつたとしても大部分は本人の食費その他の生活費として支出していたものと解せられ、また結婚後は父母の生活は年金並びに申立人が従来住んでいた二階の部分を間貸しすること等により相手方よりの仕送りがなくても、十分成り立つものと解せられる。)を認めることができる。

まず、消費単位であるが、申立人は三歳以下の幼児であるので別表中四〇、申立人の母佐藤てるみは、既婚六〇歳未満女子で軽作業に従事している者として別表中九〇、相手方は既婚六〇歳未満男子で警官として重作業に従事している者として別表中一一五、相手方の妻は既婚女子の主婦として別表中八〇にそれぞれ該当するものと認められる。

さて、昭和四〇年一〇月から一二月間の間における申立人の養育費について検討するに、

1  相手方の最低生活費

昭和四〇年度の東京都における消費単位一〇〇についての最低生活費は別表のとおり一万一、七〇〇円であるので、これによつて相手方の最低生活費を算出すると、

11,700円×(115/100) = 13,455円

となり、相手方の収入は、これを超えているから、申立人の養育費を負担することは可能である。

2  申立人がその母佐藤てるみとの共同生活において費消すると認められる生活費(申立人の母佐藤てるみ方における生活程度)

申立人の母佐藤てるみは、前述の如く平均手取月収は約三万五、〇〇〇円であるが、その職業上の必要経費を一割とみて、これを控除すると、三万一、五〇〇円となるのでこれにより申立人の母佐藤てるみ方における生活程度を算定すると、

31,500円×(40/90+40) = 9,692円

となる。

3  申立人が相手方に引き取られ、相手方と共同生活をしていると仮定した場合に申立人の生活費として認められる金額(申立人の相手方方における生活程度)相手方は前述の如く平均手取月収は約四万五、〇〇〇円であるが、その職業上の必要経費を一割とみて、これを控除すると、四万〇、五〇〇円となるので、これにより申立人の相手方方における生活程度を算定すると

40,500円×(40/115+40) = 10,452円

となる。これによつてみると、申立人の相手方における生活程度の方が、申立人の佐藤てるみ方における生活程度を超えているから、相手方は申立人に少くとも一箇月金一万〇、四五二円程度の生活をさせるように、申立人の養育費を負担しなければならない。

しかも、本件において申立人の母佐藤てるみは同期間中申立人とともに生活するためにアパートの間代として金一万五、二五〇円を負担しているので、相手方は申立人の住居費として、

15,250円×(40/90+40) = 4,692円

を前記金一万四五二円に加算した額金一万五、一四四円を申立人の養育費として申立人の母佐藤てるみとともに負担すべきである。

4  申立人の母佐藤てるみの最低生活費

11,700円×(90/100) = 10,530円

5  申立人の養育費について母佐藤てるみと相手方との分担すべき額

前述の申立人の養育費としての必要額金一万五、一四四円は、申立人の母佐藤てるみと相手方とが、その平均手取月収からそれぞれ一割の職業上の必要経費を控除した額から、更に各自の最低生活費を控除した額の割合によつて分担すべきである。

母佐藤てるみの負担額は

15,144円×((31,500-10,530)/(40,500-13,455)+(31,500-10,530)) = 15,144円×(20,970/27,045+20,970) = 6,614円

であり、相手方の分担額は

15,144円×(27,045/27,045+20,970) = 8,530円

となる。そこで、この期間相手方は申立人に対しその扶養費として一箇月金八、五〇〇円(一〇〇円未満四拾五入)を支払わなければならないのである。

次に、昭和四一年一月から同年一一月までの間における申立人の養育費について検討するに、

1  相手方の最低生活費

昭和四一年度の東京都における消費単位一〇〇についての最低生活費は別表のとおり一万二、三〇〇円であるので、これによつて相手方の最低生活費を算出すると、

12,300円×(115/100) = 14,145円

となり、相手方の収入は、これを超えているから、申立人の養育費を負担することは可能である。

2  申立人の母佐藤てるみ方における生活程度

31,500円×(90/90+40) = 9,692円

3  申立人の相手方における生活程度

40,500円×(40/115+40) = 10,452円

これによると申立人の相手方方における生活程度の方が、申立人の母佐藤てるみ方における生活程度を超えているから、相手方は申立人に対し少くとも一箇月金一万〇、四五二円程度の生活をさせるように、申立人の養育費を負担すべく、また、同期間中申立人の母佐藤てるみは申立人とともに生活するためにアパートの間代として金一万六、二五〇円を負担しているので、相手方は申立人の住居費として

16,250円×(40/90+40) = 5,000円

を前記金一万〇、四五二円に加算した額金一万五、四五二円を申立人の養育費として申立人の母佐藤てるみとともに負担すべきである。

4  申立人の母佐藤てるみの最低生活費

12,300円×(90/100) = 11,070円

5  申立人の養育費について母佐藤てるみと相手方とが負担すべき額

前述の申立人の養育費としての必要額金一万五、四五二円は、申立人の母佐藤てるみと相手方とが、その平均手取月収からそれぞれ一割の職業上の必要経費を控除した額から、更に各自の最低生活費を控除した額の割合によつて分担すべきである。

母佐藤てるみの分担額は、

15,452円×((31,500-11,070)/(40,500-14,145)+(31,500-11,070)) = 15,452円×(20,430/26,355+20,430) = 6,748円

であり、相手方の分担額は、

15,452円×(26,355/26,355+20,430) = 8,704円

となる。そこで、この期間相手方は、申立人に対し、その扶養費として一箇月金八、七〇〇円(一〇〇円未満四捨五入)を支払わなければならないのである。

更に、昭和四一年一二月以降の申立人の養育費について検討するに、

1  相手方の家族の最低生活費

昭和四一年度の東京都における消費単位一〇〇についての最低生活費は別表のとおり一万二、三〇〇円であるので、これによつて相手方家族の最低生活費を算出すると、

12,300円×(115+50/100) = 23,885円

となり、相手方の収入はこれを超えているから、申立人の養育費を負担することは可能である。

2  申立人の母佐藤てるみ方における生活程度

31,500円×(40/90+40) = 9,692円

3  申立人の相手方における生活程度

40,500円×(40/115+80+40) = 6,894円

これによると、従前と異なり、申立人の母佐藤てるみ方における生活程度の方が、相手方方における生活程度を超えることとなつたのであるが、この場合にも相手方は申立人に対し少くとも母佐藤てるみ方における一箇月金九、六九二円程度の生活をさせるように申立人の養育費を負担すべく、また昭和四一年一二月以降も、申立人の母佐藤てるみは申立人とともに生活するためにアパートの間代として金一万六、二五〇円を負担しているので、相手方は申立人の住居費として

16,250円×(40/90+40) = 5,000円

を前記金九、六九二円に加算した額金一万四、六九二円を申立人の養育費として申立人の母佐藤てるみとともに負担すべきである。

4  申立人の母佐藤てるみの最低生活費

12,300円×(90/100) = 11,070円

5  申立人の養育費について母佐藤てるみと相手方とが分担すべき額

前述の申立人の養育費としての必要額金一万四、六九二円は、申立人の母佐藤てるみと相手方とがその平均手取月収からそれぞれ一割の職業上の必要経費を控除した額から、更に各自の最低生活費(相手方においては相手方とその妻との最低生活費)を控除した額の割合によつて分担すべきである。

母佐藤てるみの分担額は

14,692円×((31,500-11,070)/(40,500-23,885)+(31,500)-(11,070)) = 14,692円×(20,430/16,615+20,430) = 8,103円

であり、相手方の分担額は

14,692円×(16,615/16,615+20,430) = 6,589円

となる。そこで、昭和四一年一二月以降、相手方は申立人に対し、その扶養料として一箇月金六、六〇〇円(一〇〇円未満四捨五入)を支払わなければならないのである。

よつて、相手方は申立人に対し、扶養料として、既に期限を過ぎている昭和四〇年一〇月以降昭和四一年一二月までの合計金一二万七、八〇〇円(8,500円×3+8,700円×11+6,600円 = 127,800円)を本審判確定と同時に、また昭和四二年一月以降申立人が成年に達するまで毎月金六、六〇〇円宛各月一〇日限り、いずれも申立人住所に送金して支払うべきである。

よつて主文のとおり審判する次第である。

(家事審判官 沼辺愛一)

(別表省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例